はじめに

 抗HIV療法の発展とともに、HIV感染者の診療は多岐にわたるようになりました。特に血液凝固因子製剤によるHIV感染被害者は、血友病、重複感染しているC型肝炎、重篤な免疫不全状態の後遺症、初期の抗HIV薬の副作用、高齢化、などが複雑に絡み合い、個々の感染者がそれぞれ独特な病態にあります。これは、主治医の専門領域以外の合併症が、しばしば見落とされてしまう危険があると言えるのかもしれません。血液凝固因子製剤の使用法を十分に熟知し、血友病性関節症の診療を的確に行い、急速にアップデートするC型肝炎治療の進歩をフォローし、多剤耐性化したHIVを抑制しつつ副作用のなるべく少ない抗HIV療法を選択し、いわゆる生活習慣病の診療も行い、メンタルヘルスもケアする、これらすべてを主治医一人で遂行するのは容易なことではありません。
 この冊子は、それぞれの分野の専門医にご協力いただいて作成されました。ご自身の専門領域以外の部分でお役立ていただければ幸いです。

潟永博之
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター
エイズ治療・研究開発センター(ACC)